2026.03.04

【vol.10 / イベントレポート】自然共生サイトの「誤解」を解き、次の一手へ。 ~「誰でも、どこからでも参加できる」制度の真実と、企業が今すぐ取り組むべき理由~

近年、ネイチャーポジティブへの関心が高まる中、「自然共生サイト」という制度に注目が集まっています。しかし現場の担当者からは、こんな声もよく聞こえてきます。「制度が複雑でよくわからない」「自社林を持っていないと無理では?」「莫大な予算が必要なのでは?」

こうしたイメージ先行のハードルで最初の一歩を踏み出せずにいるとすれば、それは非常にもったいない機会損失です。

今回は、企業の環境戦略支援で豊富な実績を持つグリーンフロント研究所の小串様をお招きし、「誰でも、どこからでも始められる」制度のリアルを解説いただきました。「自社林がなくてもできる方法」から認定取得のポイントまで、森林保全を「一部の専門企業の話」から「自社の成長を加速させる戦略」へと変えるためのヒントが詰まった60分です。

このレポートで分かること

  • 自然共生サイト認定の「よくある誤解」と実際の審査基準
  • 自社用地がない企業でもできる「支援証明書」制度の活用法
  • 社内説得に使えるロジックと、費用対効果の考え方
  • 認定後の維持管理を「コスト」ではなく「活動」に変える仕組み

開催概要

開催日時:2026年3月4日(オンライン開催・参加費無料)

ゲスト:小串 様(グリーンフロント研究所 代表/徳島大学・中京大学 非常勤講師)

モデレーター:松下 登志朗(株式会社ソマノベース 法人事業部)

「自社林がないから無理」のほとんどは誤解!?

自然共生サイトは、2030年までに国土の30%を保全するという国際目標(30by30)を実現するための制度です。2024年度末時点で448か所が認定を受け、そのうち50〜60%が企業主体によるもの。世界の保護地域データベースにも掲載されるため、投資家やESG評価機関からも注目されています。

しかし「うちには難しい」と感じる企業は多く、その理由の多くは誤解に基づいています。小串様が現場で繰り返し聞いてきた「誤解のあるある」を紹介します。

誤解1:希少種がいないと認定されない

生物多様性の価値に関する基準は9項目あり、1項目でもクリアすればOK。厳しい基準(希少種の存在など)は9項目中一部であり、「しっかり管理すれば十分対応できる基準」も多くあります。さらに2024年のルール改定で、9項目のいずれも該当しなくても、今後改善していく活動計画を提出すれば「回復型」「創出型」として認定できる制度が新設されました。

誤解2:まとまった広い土地が必要

申請に必要な面積の下限はなく、清水建設の事例では0.187ヘクタールという小規模でも認定されています。また土地が連続していなくてもOK。虫食い状態の区域であっても、スモールスタートで始めることができます。審査で最も重視されるのは「広さ」ではなく、「生物多様性の増進に向けた活動計画の中身」です。

誤解3:認定されたら終わり

認定はゴールではなくスタートです。認定後は、目標設定・維持管理・5年ごとの報告といった遵守義務があります。審査では「活動計画の実現可能性」が問われ、「5年後・10年後も持続可能か」という観点から組織の人材構成まで確認されることも。計画を立て、実行し続けることが自然共生サイト認定の本質です。

自社用地がなくても動ける——「支援証明書」という選択肢

LINEヤフー、ウェザーニュース、野村総研など、自社用地を持たない企業向けに「支援証明書」制度が整備されました。NPOや他の自然共生サイト認定を資金・人・物で支援することで、環境省からお墨付きの証明書を取得できる仕組みです。

  • 支援の内容は「資金提供」「人手の提供」「機材の提供」など幅広くOK(複数組み合わせも可能)
  • 証明書はサステナビリティレポートやCSRレポート、ホームページでの実績紹介に活用できる
  • 発行には環境省への申請費用(9万9千円)が必要。毎年掲載したい場合は年次更新が必要
  • サイット認定前からの支援実績もさかのぼって証明可能(一回限り)

「売上は上がるのか?」——社内説得の現実的な突破口

ネイチャーポジティブ活動の社内説得は、多くの担当者が直面する最初の壁です。小串様は明確にこう言い切ります。

「売上が上がるかと聞かれたら、上がりませんと答えるしかない。短期の財務効果を前提に議論すると行き詰まります」

では、どう動かすか。小串様が提案するのは「新規枠で戦わない」アプローチです。TNFDのために、ESG評価のためにと真っ向勝負で稟議を通そうとするより、既存の社員イベントや福利厚生の予算枠の中で「ネイチャーポジティブ版」として始める方が現実的。主任・係長クラスが決裁できる予算規模でスモールスタートし、写真映えするイベントで社内外の評判を積み上げていくことが第一歩だといいます。

また「ネイチャーポジティブは最初から大きくやらなくていい」という考え方も重要です。最初にドカンと大きな活動をすると、それ以上の成果を求められ続けます。小さく始めて順々に規模を広げていく——これがネイチャーポジティブの「ポジティブ」の本質でもあります。

維持管理は「負担」じゃない——自然を活用するという発想の転換

認定後の維持管理をコストと捉えると、活動が続かなくなります。小串様が提案するのは、維持管理そのものを「社員が楽しめるコンテンツ」にしてしまうという発想の転換です。

実際にグリーンフロント研究所が伴走するソニーでは、毎年8月の第一金曜日を「納涼行デー」として、社員と家族が参加する夜の昆虫観察イベント(ライトトラップ)を4年間継続しています。子供たちが虫を捕まえて歓声を上げる場が、同時に共生サイットのモニタリング調査データになっているのです。

  • 草刈りや間伐を「社員の汗かくイベント」として設計すると、外部委託コストを抑えられる
  • モニタリングは全種調査が必須ではなく、タマムシやカブトムシなど指標種に絞った調査でOK
  • 上司がいない自然の場で、普段接点のない社員同士が自然と会話が生まれる——副産物としての組織効果も大きい
  • 職場復帰プログラムや新人研修のコンテンツとして活用している企業事例もある

参加者Q&Aハイライト

当日は多くの質問が寄せられました。ここでは特に反響の大きかった4つをご紹介します。

Q1. 工場立地法で設けた緑地も自然共生サイトとして申請できますか?

むしろ工場緑地での申請事例は多いです。ただし、現状維持ではなく「今よりも生物多様性を高めていく計画」を盛り込むことが審査で求められます。昔作った緑地を里山的に整備し直すという方向性を計画に明記できれば、十分に認定の可能性があります。

Q2. ネイチャーポジティブにはどんなKPIを設定すればいいですか?

2軸で設定するのがおすすめです。①人材育成・エンゲージメント軸(参加者数、社内SNSのいいね数、地域巻き込み人数など)と、②生き物・環境軸(面積、CO₂固定量、指標種の個体数)。後者は全種調査でなく指標種1〜2種に絞って継続計測するだけでも十分です。TNFDのチェック項目にも「社員の人材育成」が含まれており、両軸での整理が有効です。

Q3. 不動産開発と自然共生サイトを組み合わせることはできますか?

可能性は十分にあります。開発で失われた自然を、周辺エリアで自然共生サイトとして整備・申請する「創出型」の活用がこれにあたります。高付加価値の不動産開発においては、グリーンインフラや自然共生を付加価値とする需要層(高所得者層)も一定数いるため、「自然共生サイトのある街」という売り方が成立する可能性があります。

Q4. パートナーとなる現場や地権者はどうやって探せばいいですか?

TNFDを意識する場合は、工場が立地する「上流域の流域」にある自然共生サイトを探すとロジックが通りやすいです。各都道府県の担当窓口への相談や、グリーンフロント研究所のような環境コンサルへの相談も有効です。マッチングで大切なのは「企業の理論を押し付けない」こと。まず少人数・少予算のイベントから関係を作り、地域と信頼を育てていくことが長続きの秘訣です。

アーカイブ動画・講演資料でもっと深く

「自然共生サイトに興味はあるが何から始めればいいかわからない」「社内説得の材料が欲しい」「認定後の運用イメージを掴みたい」——そんな方にこそ、じっくり見ていただきたい内容です。ぜひアーカイブもご覧ください。

▶︎アーカイブはこちらから:https://somanobase.com/event/kimmitzcollegewebinar10/

Webinar by キミッツカレッジとは

「森に関わるためのKnowledgeをOpenにしよう。」をコンセプトに、より多くの方が森と関わるきっかけを得られるよう開催している無料ウェビナーです。脱炭素やネイチャーポジティブが注目される一方で、企業がいざ森林に関わろうとすると「専門的すぎる」「何から始めればいいか分からない」といった壁に直面しがちです。本ウェビナーでは、実際に一歩を踏み出している企業様や現場を支える専門家をお招きし、「企業の視点」と「現場の視点」の双方から、調べてもなかなか得られない「リアルな声」をお届けしています。これから森に関わりたい方、活動をアップデートしたい企業様にとって、新たな一歩を踏み出すきっかけとなることを目指しています。

▶︎ウェビナー・イベントの最新情報はこちらから:https://somanocollege.peatix.com/

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